黒澤明作品【夢】…

1990年に公開された、黒澤明監督による
日本とアメリカの合作映画である『夢』(ゆめ、英題:Dreams)。
「日照り雨」「桃畑」「雪あらし」「トンネル」「鴉」「赤冨士」「鬼哭」
「水車のある村」の8話からなるオムニバス形式なのですが、
8話の中で一番、私の心に響いたのが「トンネル」という作品です。

太平洋戦争が終わり、一人の陸軍将校が戦地から戻り、
人気のない山道を歩いているとトンネルに差し掛かる。
そのトンネルから犬が出てきて威嚇してきた。
犬に怯えながらも無事にトンネルを出られたが…。
夢@3



トンネルから出た直後、トンネル内から規律正しい軍靴の足音が聞こえて来て
やがてトンネルから戦死したはずのかつての部下…
野口一等兵が青い顔をして出てきた。
驚きを隠せないでいる将校に
『中隊長殿!、自分は本当に戦死したのでありますか?』と聞いてきた。
『自分は…自分が本当に戦死したとは思えません!。』と言う野口に
『お前は死んだんだ…。敵の弾に当たり…そして俺の腕の中で死んだ。』
と答える将校。
夢@5n


『分かりました!
しかし、親父やお袋は…まだ自分が死んだとは思っておりません!。』

山里の方を指さしながら
『あれが自分の家であります…。
親父やお袋は…あの家でまだ自分の帰りを待っております!。』

との野口の心からの言葉を受けて
『…しかし、お前が死んだのは事実なんだ。可哀想だが、はっきり言う…
私の腕の中で、お前は死んだ。』
夢@6


将校の言葉に悲しい表情を浮かべる野口…
名残惜しそうにやがて暗いトンネル内に消えて行った…。
夢@2n





野口一等兵を見送り、茫然としていた将校だったが、
野口と入れ替わるように今度は大勢の軍靴の足音がトンネル内から響いてきた。
『小隊!止まれ!』の号令で立ち止まる小隊。
それはやはり野口一等兵と同じく、既に戦死した兵士達の姿だった。
『第三小隊!只今帰りました!。全員、異常なし!』との報告を
今にも泣き出しそうな顔をしながら聞く将校。
夢2@1n


『聞いてくれ!。お前達の気持ちは良く分かる…。
しかし、第三小隊は全滅した。お前達は全員戦死したのだ。
すまん…。生き残ったわしは、お前達に会わす顔もない…。
お前達を全滅させたのは、このわしの責任だ。
お前達の…無念な気持ちは良く分かる。戦死とはいえ、犬死だ。
しかし、そのようにこの世を彷徨って何になる。
たのむ!、帰れ。帰って静かに眠ってくれ。』
と嗚咽交じりに語る将校。
夢2@3


自分の思いを言い終わると将校は襟を正し、大きな声で
『第三小隊!、回れ右!前へ進め!』と号令をかけた。
号令従い、トンネル内に消えて行く兵士達。
夢2@4n




約15分という短い作品ですが
さすがはあの戦争も体験なさった黒澤監督、
戦争の悲惨さを良く表していると思います。
私の伯父…私の父の歳の離れた兄も戦死しています。
一人は広島の原爆で被爆死。
もう一人はソロモン諸島のブーゲンビル島で戦病死。
この作品を見ていると、特にブーゲンビル島で戦病死した伯父の姿と重なります。
(下の写真は伯父です)
伯父b
日本から遠く離れた土地で食料も尽き果て、
熱帯のジャングルの中でマラリアにかかり
やがて衰弱死してしまった伯父。
日本からの物資を積んだ輸送船がアメリカ軍の攻撃で沈没し
食料どころか医薬品も何もない状態で
日々刻々と衰えていく…そこには人間の尊厳も何もない。
飢えと病で死んで行く兵士達の事を
『歩ける者は1週間…
寝たきりの者は3日…
ハエ払えぬ者は2日…
瞬きしない者は明日…』

とこの様な言葉で表現していたとか。
じわりじわりと襲ってくる、飢えと病に苦しみながら死んで行くんです。
伯父はブーゲンビル島での第二次タロキナ作戦の際に亡くなったようですが、
Wikipediaによると『この作戦での第6師団の損害は、
死傷率80%を超えた歩兵第45連隊を筆頭に死傷1万3千人の壊滅的なものであった。
損害のうち少なくとも4千人以上は戦病によるものであった。』
とあります。
伯父は鹿児島の歩兵第45連隊所属でしたので、
この悲しい数値に涙が出てしまいます。

広島の原爆で被爆死した勝気な長男とは違い、
大人しくて優しかったという次男の伯父は、
およそ軍人向きではなかったと父は言ってましたが、
なるほど…父の言葉通り、写真に写っている伯父の優しい目線が
それを物語っているように思います。
本当に…どんなに故郷に帰りたかったでしょう…。
伯父には婚約者がいました。
戦地から帰った暁には結婚する事になっていたそうです。
享年22歳……悲しすぎる死です。

今、集団的自衛権で色々と議論されていますね。
政策的にも色んな想いがあるとは思いますが……
でも…やはり…
未来ある若者を戦地に送り出すような事態だけは
もう二度とさせたくない…させる訳にはいかないという気持ちでいっぱいです。

追記:ご紹介した黒澤明監督の【夢「トンネル」】を
二つに分割して動画サイトにUPしてありました。
お時間が許せばどうかご覧下さいませ
★夢:パート1
★夢:パート2




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